Part 5ちょうどいい締め付け
方がわからない、
という「困った!?」

ねじは締め付けると軸方向に引っ張られてわずかに伸びます。この際に元に戻ろうとする反発力(軸力)が発生することで、ねじと相手のモノは締結・固定されます。締め付けトルクが小さすぎるとねじがゆるみ、大きすぎるとねじが破損してしまうため、締め付けトルクの把握がとても重要なのですが、ここで問題となるのがトルク(締め付ける力)の使われ方です。トルクの約50%は座面の摩擦力に、約40%はねじ面の摩擦に消費され、締結・固定に大きな役割をはたす軸力に使われるのは約10%に過ぎないというわけです(下図参照)。 軸力の測定には特殊なねじや装置が必要となることから、簡易的な方法として、締め付けトルクの数値によって軸力を管理する「トルク法」が使われています。

締め付けトルクの管理には、トルクレンチと呼ばれる工具を使用します。設定した締め付けトルクに達した際に「カチッ」と音が鳴り通知してくれるため、管理が容易で作業性に優れており、トルクをダイヤルやデジタルで表示する機種では、数値での管理も可能です。 トルクレンチを使用する際の注意点としては、締め付ける際の①持ち手の位置、②回し方、③確認方法の3つがあります。①では、トルクレンチの持ち手の位置がねじに近過ぎると、音が早く鳴りトルクが小さくなってしまいます。逆に、柄の先端部を持ってしまうとトルクが大きくなってしまうので注意しましょう。②で注意するのは、音の鳴るタイミングです。ねじを回している途中で音が鳴った場合は正常、ねじを回し始めてすぐに音が鳴った場合は、摩擦の関係でトルクが低くなっていることを示しています。③では、増し締めを行って「カチッカチッ」と2回鳴らして確認することがありますが、設定以上の過剰なトルクが加えられているため、許容範囲以上に締め込みすぎないように注意しましょう。

Part 6取り外しできないねじ
がほしい、
という「困った!?」

ねじは取り外しができる部品ですが、自動車のナンバープレートや公園の遊具など、防犯や安全の面から簡単には外せないようにしたい、というニーズも多くあります。そうしたニーズに対応するため、頭部形状やリセスを工夫し、専用の工具がないと取り外すことのできない製品が販売されています。ホームセンターの中には、「いたずら防止ねじ」を取り扱っている店舗もあるので、ぜひ探してみてください。

Part 7ねじが錆びてしまう、
という「困った!?」

金属製のねじにつきものなのが、「錆び」の問題です。ねじが錆びてしまうと、金属としての強度が下がるだけでなく、ボロボロになり美観を損ねてしまうことにもなります。ひとくちに錆びといっても、いくつか種類があり、ねじで一般的なのが「赤錆」や「白錆」です。鉄はとても腐食しやすい金属で、酸素と鉄が結びつくことで酸化鉄が作られ、これが赤錆となります。そのため、めっきを施して錆から鉄を守っています。
鉄に施すめっきは、鉄より錆びやすい特性をもつ亜鉛を鉄の表面に付着させた亜鉛めっきが一般的で、亜鉛が錆びて酸化亜鉛が作られ、これが白錆となります。亜鉛めっきは安価で使い勝手が良いため、亜鉛めっきにクロメート処理と呼ばれる処理を施して耐食性を向上させたものが広く流通しています。ユニクロやクロメート、三価クロメートと呼ばれる鉄のねじにめっきをつけた製品がこれに該当します。めっきで注意しなければならないのは、表面に傷ができたり汚れが付着したりすると、腐食が進行し錆が発生しやすくなるという点です。締め付ける時には、ねじに傷をつけてしまわないように注意しましょう。 ステンレス製のねじも、錆は発生しづらいものの、けっして錆びないというわけではありません。ステンレスで錆が発生しづらいのは、金属の表面に不動態皮膜というバリアのようなものを形成しているため、酸素が金属に触れにくいからです。不動態皮膜というバリアは人間の皮膚のように新陳代謝を繰り返していて、空気中の酸素と反応して常に新しい不動態皮膜を作り出しているため、高い耐食性が維持されているのです。 ただしステンレスにも種類があり、それぞれ耐食性は異なります。また、表面にゴミなどの付着物があると酸素が供給されず、不動態皮膜が弱くなり、黒い点状に錆が広がってしまう場合があります。屋外でステンレスのねじを使用している場合、風雨などで汚れが表面に堆積し、腐食につながります。光沢がなくなってきたら、それは腐食が進んでいる証拠。注意してほしいポイントです。 鉄やステンレスに共通の特性として、塩分に対する弱さがあります。金属の表面に塩分が付着すると、水と反応して腐食スピードが早まってしまうため、メンテナンスが必要になる場合があります。沿岸部などではあらかじめ錆対策を施しておきましょう。

参考文献

1)
ねじ・機械要素が一番わかる,大磯 義和 著
2)
絵とき「ねじ」基礎のきそ,門田 和雄 著
3)
トラブルを未然に防ぐ ねじ設計法と保全対策,橋本 真治 著
4)
ねじとばねから学ぶ! 設計者のための機械要素,國井 良昌 著
5)
メイカーのための ねじのキホン,門田 和雄 著
6)
錆・腐食・防食のすべてがわかる事典,藤井 哲雄 監修、田村 正隆 発行

「設備と管理」2022年9月号(ねじの困りごと7) に掲載されています。

https://www.ohmsha.co.jp/magazine/setukan202209h/